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97話 成長期の矯正治療

矯正治療をする歯科医師に一番必要な資質は診断能力です。

矯正治療は原因にアプローチしてこそ良い治療効果を発揮します。間違った診断によって導かれた「原因」アプローチした場合、それは有害な治療となります。

ただ、トンチンカンな治療行為であっても、疑似改善することがあります。この時、術者は自分の方法が正しいものと思い込み、その後も同じ愚を繰り返すことになるので厄介です。

疑似改善とは私の考えた造語です。

「疑似」とは本物ではないが、見かけが似ていることを意味します。

つまり、間違った治療行為であっても、その手法が強引であったり、または長期に及んだ場合には、見かけ上治ったようになることがあるーこれを疑似改善と呼んでいます。

疑似の改善であるため、第三者がみても外見上になんとなく違和感を感じとれます。

症例は8才の男子、反対咬合を気にして来院されました。

私はどう診断したでしょうか。

【初診】


なぜ反対咬合になっているのかを知ることが矯正治療の第一歩です。


















































次に示す写真は初診時のもので同一日に撮影しました。

写真Aは前歯の早期接触部位を表しています。

このことで下顎の正常な顎運動は妨げられています。

①上下前歯の先端が最初に接触(写真A)。

②この衝突を回避するため、顎を前に出して咬む(写真B)。


写真A                   



写真B(再掲)













上顎前歯の内側傾斜に起因する早期接触で、下顎が前方位をとることが原因のひとつであることがわかりました。他にも原因がないか考えてみましょう。

次に示す図は、初診時の頭部エックス線規格写真の模式図です。

           


















  実線:平均値 点線:本症例

数字データは割愛しますが、骨格的な反対咬合であることがわかりました。

なお、模型分析の結果、上顎骨および上顎歯列の狭窄はありません。

冒頭に矯正治療は原因にアプローチしてこそ良い治療効果を発揮すること言いました。

本症例の治療計画は次の通りです。

第一段階:機能的障害の除去と顎の成長のコントロールによる反対咬合の改善

     (上顎前方牽引装置)

観  察:側方歯交換の誘導、成長の観察

第二段階:永久歯の歯並びの改善(マルチブラケット装置)

保  定:配列後の観察(保定装置)

【反対咬合の改善】

2か月後、反対咬合は改善され、第一段階の目標は達成されました。






















もう少しの期間、第一段階の治療を継続した後は、観察に移行し永久歯の生えるのを待ちます。

【観察中】

14才 身長が伸びるに伴って、下顎骨の成長が旺盛になってきたので様子を見ます。

























【永久歯の歯並びの治療】

16才 なんとかこの辺で下顎の位置が落ち着きました。

この段階で再検査して診断をたてます。非抜歯でマルチブラケット治療を開始します。




















































【保 定】

治療期間 19ヶ月。

マルチブラケット装置を外した時の写真です(写真原本に不備あり)。

保定に移行します。
















































子どもの矯正治療にあたる時は、成長発育を考慮した長期的な治療計画をたてる必要があります。計画性のない行き当たりばったりの矯正治療は、羅針盤のない航海のようなものでゴールには到達できないでしょう。

また、原因にアプローチしない矯正治療で疑似改善した場合、歯や顎の移動様式、移動位置に辻褄が合わず妙な関係になっていたり、顔面の様相に違和感があったりします。治療をしているようで治療になっていないというのが本当のところです。

その矯正治療に疑問を感じたら、きちんと説明を求めましょう。

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