92話 何もしない勇気
今回の症例は矯正相談をした後、すぐには治療せず「観察」にしました。
矯正治療は適切な時期に適切な治療をするのがベストであり、そのタイミングを見極めるためには待つことも重要です。ただし、自分で判断せず矯正歯科に明るい歯科医師に相談して下さい。
【症例1】
3才 男子
上下の前歯が接触せず離れていることを気にしての矯正相談です。
ご両親の心配はよくわかります。しかしこの時点では積極的な治療の必要はありません。
【症例2】
5才 女子
向かって左側(本人の右側)の乳犬歯が逆になっています。
下顎全体が左にズレて、正中もそれに連動しています。
要注意な症例です。きちんと観察していきます。
【症例3】
6才 女子
下顎の永久前歯が生えると、上顎の乳歯の先と衝突するようになりました。
とりあえず、上顎の前歯の生え変わりを待って、その時の接触関係を確認します。
【症例4】
6才 男子
症例3と違う患者さんですが、上顎の前歯が生えてくると反対咬合の傾向がでてきました。もう少し観察して治療の時期を考えます。
【症例5】
下顎の2番目の前歯が内側に生えてきました。
やはり観察します。
【症例6】
乳歯列期の反対咬合症例です。
後に治療に至りますが、この時点では数か月ごとの観察で問題ありません。
矯正治療の原則は原因にアプローチすることです。したがって、原因がはっきりするまで待つのが筋です。必要のない矯正治療をわざわざする必要はありません。その必要性を見極めるための観察です。
歯科医師が目の前の子どもに対し何もしないのも、矯正治療上の判断なのです。
一方で、年に1~2回の定期観察を数年続けていくと、きちんと継続して来院してくれる人と、いつのまにか来なくなる人がいるのも事実です。
観察にしたのではお金にならないので、なんとか理由を付けて装置を入れる歯科医師がいても不思議ではありません。怪しいと思ったら、セカンドオピニオンをすることも必要です。
今回紹介した症例で実際の治療に至ったのは症例6だけでした。
いつのまにか来なくなった人もいます。問題なく経過したので来院の必要性がなくなったのであれば良いのですが、問題を残したままの中断は心配です。継続した観察を心がけてほしいものです。
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