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89話 歯の移動には設計図がいる

歯列の凸凹と反対咬合をあわせもつ症例です。

さっそく治療しましょう。

【初診】

16才 女性

前歯部は反対咬合です。

歯列の凸凹の程度は上顎で多く、下顎では少ない。











左右の臼歯関係も反対咬合の傾向を示すが、臼歯部の狭さは見あたらない。










































診断では単に現在の問題点を求めるだけではなく、治療の進め方、歯並びの完成、予後を含めたところまで考えます。マルチブラケット治療を始める前には、フォースシステムを設定します。

フォースシステムとは、いわゆる力の設計図です。治療のスタートからゴールまでを細分して、それぞれの段階で使用するワイヤーの素材、サイズ、曲げ方(角度・ねじれ・段差など)、ゴム、固定装置などを細かく設定し図面におこします。

本症例は前歯部が反対咬合なので、下顎の前歯を後退させる過程で顎間ゴム(参照 7話 矯正用の小さなゴム)の使用を想定しています。顎間ゴムの反作用を打ち消すため、あらかじめワイヤーの曲げ方に工夫を施し、ゴムの作用が効果的に発揮できるようなシステムにしておくなど、あらかじめ考えておきます。

【治療後】

治療期間 20ヶ月















































きれいな歯並び・嚙み合わせです。

歯列の凸凹は解消され反対咬合も治り、当時の面影はありません。

本症例は骨格の問題、顎と歯の大きさの問題などのバランスをととのえるため抜歯が必要でした。通常、抜歯部位は第一小臼歯です。小臼歯の抜歯で得られるスペースは約8.0㎜、両側で16.0㎜。この抜歯空隙は歯列の凸凹の解消と前歯の後退に利用します。

貴重な抜歯空隙が無駄に消費されないように、フォースシステムを考える時には、歯の移動の仕方に不備が無いように注意します。

矯正治療で重要なのは考え方の論理に筋が通っていることです。

正しく理屈に合った考え方でもって、顎や歯を制御することが肝要です。

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