77話 正しい診断ができない理由
犬歯が飛び出ているとうい点で、八重歯の症例に見えます。
でも、普通の八重歯とはチョット違う感じもします。
みなさんは、どう考えるでしょうか。
正面と横からの画像を見てみましょう。
【初診】
私が違和感をおぼえたのは、犬歯の角度と位置です。
通常の八重歯は、あくまでも犬歯相当部の上方に位置しています。
本症例の犬歯は、歯冠が1番と2番の間に位置していること、
そして歯根は1番の方向に斜めにある様に見えます。
※用語
歯 冠(しかん) :歯の頭
歯 根(しこん) :歯の根
中切歯(ちゅうせっし):1番目の上顎前歯、略称は1番
側切歯(そくせっし) :2番目の上顎前歯、略称は2番
【途中経過】
残っていた乳犬歯を抜歯して、そこに向かって移動を開始します。
歯冠はある程度移動したものの、歯根の移動は少なく、歯槽骨が薄くなり歯肉の状態も良くありません。これ以上の移動を断念しました。
そこで、側切歯を横に移動させ、犬歯を下ろすことにしました。
犬歯の歯根の方向を考えると、この方が自然な位置どりです。
【治療後】
術者が症例に向き合うとき、その症例のおよその傾向をつかみ、どのカテゴリーに分類されるか考えます。この時、先入観が強すぎてはいけません。思い込みは思考の柔軟性を失わせ、誤診の芽を生むからです。
例えば、不正咬合には様々の成り立ちがあるにもかかわらず、一部の歯科医師は不正咬合の原因は顎の狭さにあると信じています。
この前提があると、症例のどこかに狭さを見つけようとする心理が働きます。狭さの理由に利用されるのが、歯列の凸凹やレントゲン写真上での永久歯の配列状態などです。妄信的な思い込みは誤診を生みます。診断ではなく、こじつけによって、本来狭くない顎に対し、急速拡大装置を入れるという間違った治療に発展していくのです。
矯正治療にあたる歯科医師は、科学的な根拠に基づいた正しい診断をしなければなりません。
関連記事