74話 下顎は拡大してはいけない
次の2枚の写真は同じ人の口腔内写真です。
違いのは撮影時期です。混合歯列期と永久歯列期に撮影しました。(混合歯列:乳歯と永久歯の混合)
前歯の凸凹がどうなったか見比べて下さい。
7才
12才
前歯の凸凹の程度が少なくなりました。
さて、ここで問題です。
私は何をしたでしょうか。答えは後ほど。
症例の全体像を見てみましょう。
【初診時】
7才 男子
検査資料を分析して診断をたてます。
前歯に不良な接触があり、下顎の一本の歯が動揺していました。その歯の歯肉は退縮しています。
第一段階の目的は、この機能的障害を除去することです。
【機能的障害の除去】
上顎前歯の位置を修正して、下顎の歯との接触を柔らかくしました。
この後は、定期的に観察します。
【永久歯列期】
12才、永久歯が生えそろいました。
冒頭に、前歯の凸凹の程度がなぜ少なくなったか、私は何をしたでしょうか。
と問題を出しました。
もう一度、2枚の写真を並べます。
7才
12才
答え、「私は何もしていない」が正解です。
顎は成長で大きくなり、自然に下顎の前歯はここまで並びます。
拡大装置を入れている子どもがいますが、いかに無意味かわかりましたか。
むしろ拡大装置は正常な成長を阻害するなどの悪影響があります。
必要のない矯正治療は、子どもにいらぬ苦痛を与え、時間とお金が無駄になるだけです。下顎に拡大装置を入れる必要はありません。
この段階でもう一度、検査・診断をします。
第一段階では前歯の機能的障害の除去を(数か月)、
第二段階では全体の治療を行います(16~24ヶ月)。
矯正治療は効率的に行わなければなりません。
ダラダラと何年にもわたり装置が入っているようでは、まるでダメ。
【治療後】
計画的に治療をしてきちんと治します。
抜歯・非抜歯は好みや気分で決めるものではありません。抜歯分析をして学術的な精確性をもって判定します。
私には、初診の段階で将来の治療結果が見えています。
だから、どの段階で何をすべきか、何をしてはいけなのかの判断が出来ます。
問題の答えは、「何もしていない」でした。何もしないのも治療上の戦略です。
矯正治療の本質をわかっていないと、無駄な治療、誤った治療が行われます。
矯正治療をする歯科医師にもいろいろいますので、質の良い矯正治療を受けたい場合は、歯科医院選びを慎重にしましょう。