65話 成人 上下顎前突症例
重ね合わせ図は治療効果を検証するうえで、重要な情報を提供してくれます。
例えば、どう治ったか、どう治らなかったか、作用は反作用は、など目で見て分かります。術者の治療技術を如実に反映する鏡とも言えます。
上の重ね合わせ図は今回の症例です。説明はあとでします。
口の中を診てみましょう。 【初診】
30才代 女性
先ず口を閉じた状態。上下の歯列が咬み合ったときの関係「咬み合わせ」を確認します。次に口を開けた状態。歯列の凸凹の量「歯並び」を確認します。
次に、咬み合った状態のときの横顔を覗き込みます。顎顔面全体のバランスを観察します。
通法に従い、検査資料を分析します。本症例は、小臼歯の抜歯が必要となりました。
【治療後】
動的治療期間 16カ月
装置を外した時の写真です。保定装置に置き換えて保定に移行します。
みなさんが使用する装置に関心があることは十分理解できます。ただ、何を使うかより、どう治るかを考えてみて下さい。私の使用する装置はマルチブラケット装置です。歯の表側に付けるタイプでワイヤー(針金)で治します。
【治療効果の判定】
矯正治療がまぐれで治ったのでは困ります。また治療成績の精度を上げるには、なぜ成功したか、あるいはなぜ失敗したかを知る必要があります。それを知る方法が重ね合わせ図です。製作には時間がかかりますが、治療技術の確認ができ、たいへん勉強になります。
【頭部X線規格写真】
初診
治療後
【重ね合わせ図】
実線:初診 点線:治療後
1、上顎前歯:6.0㎜ 後退 と 3.0㎜ 圧下(※1)
2、上 唇:2.0~4.0㎜ 後退
3、下顎前歯:5.0㎜ 後退
4、下 唇:5.0㎜ 後退
5、下顎骨 : 1.0㎜ 前方 と 2.0㎜ 下顔面高の短縮
6、オトガイ部軟組織の緊張緩和
治療効果のまとめ。
上下顎の前歯が後方移動した。これに連動して口唇がさがり口元の突出感が減少し、口唇閉鎖が容易になった。オトガイ部皮膚の緊張が無くなり、自然な丸みを帯びた。また、下顎骨を反時計回りに回転させる事が出来た。これにより下顔面高が減少し、側貌の改善に貢献した。
以上のメカニズムで本症例は改善しました。
矯正治療は専門性が高く、高度な技術が要求されます。
広告に騙されることなく、きちんとした矯正治療を受けるようにして下さい。
※1 歯の移動方向を表す用語
圧下(あっか) :根尖方向、歯を埋める方向のこと