58話 矯正治療という名の誤解
成人女性、歯並びを気にして来院されました。
【初診時】
矯正治療の技術を持たない場合、向かって左上の二番目の前歯を抜いて(本人の右)、その両隣の歯を細く削り、連続した差し歯、いわゆるブリッジを入れる方法をとるかもしれません。色・形を統一するとして、犬歯から犬歯の合計5本の歯を削ることを要求されることもあり得ます。恐ろしい限りです。
矯正歯科では歯の凸凹のみならず、その人の横顔、口元の突出度など顎顔面全体像を考えます。したがって、上記の様にブリッジを入れたとしても、全体の中の一部の変化にすぎず、根本的な解決にはなりません。まして天然歯を複数本削って被せ物を入れた場合、人工物はいずれ交換の可能性があり、その意味で一時しのぎの方法と言えす。
最近、この様な差し歯やブリッジなどによる、凸凹の解決方法を「矯正」と呼んでいるのを見聞きします。材料にセラミックを使用するので、セラミック矯正とネーミングしています。
注意したほうがいいでしょう。
矯正治療で治します。
【術後】
各歯科医院ではホームページで情報を発信しています。
ルールとモラルに照らし合わせて広告するのは結構ですが、誇張や誤解を招く表現は困ります。前出のセラミック矯正など、その典型例です。差し歯やブリッジなどの補綴物(ほてつぶつ)による治療を矯正治療と呼ぶのは、ホームページを見る人に誤解を与えます。これは補綴治療(ほてつちりょう)と呼ぶもので、矯正治療とは異なるものです。まあ、そう呼んだ方がセールス上いいという事でしょう。
また、「はやい」とか、「痛くない」とか、「抜かない」などの表現も散見します。
私の施術する矯正治療は以下の通りです。
「はやい」:18ヶ月から24ヶ月。これは早か遅いか。いかがでしょうか。
「痛くない」:痛くないというのは嘘、不快症状はあります。
「抜かない」:抜く必要がなければ抜きません。抜く必要があれば抜きます。
矯正治療に魔法はありません。丁寧に淡々と仕事をするだけです。
昔から、うまい話に気を付けろと言います。現代のホームページにも通じるようです。