51話 必要のない矯正治療をする必要はない
矯正歯科業界にも様々な有料の勉強会やセミナーがあります。一般歯科の先生が矯正治療をやってみたいと思えば、そういったところを受講することになるでしょう。数回の講義を受けるだけで修了証が得られるというものです。セミナーの内容は主催者の自由な考え方に基づいているため、独自のセオリーを提唱し、受講者を惹きつけます。
問題はその内容が正しいかどうかです。間違った理論・技術であっても、そのグループ内では正しいとされているだけかもしれません。矯正歯科の常識とは相容れないことも考えられます。
専門家から一笑されるくらいなら実害はありませんが、患者さんに事故が及ぶようなら笑い事では済まされません。
【初診時口腔内写真】
7才 男子
セファロ分析は必須です。ただし、それ自体が自動的に治療のやり方を教えてくれるものではありません。検査資料は単なるデータであって考えるのは担当医の頭です。
【反対咬合の改善】
反対咬合は改善されました。このあとは、永久歯の生え変わりと顎の成長などを観察します。
【別な症例との比較】
別な症例
本症例
本症例の方が隙間がなさそうです。
もしここで、ある先生が「この子は顎が狭い」と言ったとします。次に「顎を拡大しましょう」とくる。さらに、親の責任を追及し「柔らかいものを食べさせていたからだ」となる。「治療は早いほうがいい」このようにして必要のない矯正治療がはじまります。
しかし今、何かをしても一利もありません、それは必要のない矯正治療です。
ただ患者さんは、その先生に言われるままに治療を受け入れることになるでしょう。
本症例の歯列に隙間がない原因は、①永久歯が大きい、②乳歯がむし歯になったことで永久歯が寄ってきた、事によります。分析の結果、顎は狭くないので拡大の必要はありません。私はこの時点では何もせず定期的な観察をします。予定通り凸凹にしてから、あとで治します。
【永久歯萌出】
8年後、予定通りに凸凹なりました。
この時点で検査・診断をして、マルチブラケット治療をはじめます。
【マルチブラケット治療終了時】
治療期間 1年4ヶ月
必要のない治療はしない。必要な時期に必要な治療を効率よく行う。
患者さんにとってそれが一番だと、私は考えています。 保定に移行します。
【歯と歯槽骨の関係】
もう一度写真を見てみましょう。
注目点は歯とそれを支える歯槽骨の位置関係です(骨は見えないので歯肉の外観)。
初診時、途中経過、配列後のいずれも、①臼歯は咬んでいる、②歯と歯肉の角度というか、歯と歯肉の面の移行の具合というか、その関係を変えていないのが分かりますか。
歯は歯槽骨の上にしっかりと乗っている必要があります。むやみに歯列を拡大してはいけないのです。
必要のない拡大装置の使用で、歯が外側に向にかって過度に傾斜しているケースを見聞きします。歯が歯槽骨にしっかりと乗るどころではなく、歯槽骨の外側の骨が薄くなったり、ひどい時は無くなることもあります。不適切な拡大装置の使用は危険です。とくに下顎の拡大は禁忌です。
私は絶対にしません。