45話 歯を抜く矯正治療
はじめは矯正相談です。
自分の口・歯・顎・顔について、それまで分からなかった事が分かるようになれば安心できます。気軽に相談してください。
相談の内容は人それぞれです。
・歯の凸凹が気になる。
・過剰歯や欠損歯がある。
・反対咬合、上顎前突、開咬など。
・顔の外観が気になる。
このうち最後の「顔の外観」とは何をいっているのか考えてみましょう。
矯正歯科では次のふたつのことを示すことがほとんどです。
①ひとつは横顔のバランスです。反対咬合の人は、しゃくれた顔つきで下唇が出た感じの外観です。上顎前突の人は歯がいつも見えていて、唇が閉じずらい感じの外観です。
②ふたつめは口元の突出感、口元のもっこりした感じの外観です。
今回は②についてお話します。
通法に従って検査・診断をします。
【初診時口腔内写真】
15歳 女性。
歯列の凸凹はそれ程ありません。口腔内写真では分かりませんが、この症例の問題点は口元もっこりの横顔です。
私の施術する、マルチブラケット治療の治療期間は1年半から2年です。進学や転勤で治療が中断しないように、スタートの時期を決めておきましょう。
【マルチブラケット治療】
もともと歯列の凸凹が少なかったので、どこがどう治ったか分かりずらいかもしれません。初診の写真に戻って見比べてください。
【頭部X線規格写真】
初診時
治療後
今回の症例の問題点は口元の突出感、口元のもっこりした感じの顔の外観です。レントゲン写真で前歯の傾斜角度の違いが分かります。
検証してみましょう。初診と術後の2枚のレントゲンを重ね合わせると、何がどう動いたか分かります。これはレントゲン写真にトレーシングペーパーを貼り、構造物を写し取って表します。
【重ね合わせ図】
初診:実線 治療後:点線
ひとつずつ見ていきましょう。
①上顎前歯の後退と圧下(※1)
②それに連動して上唇の後退
③下顎前歯の後退と圧下
④それに連動して下唇の後退
⑤上下口唇の接する面の移動
⑥オトガイ部(顎の先)の緊張の緩和
前歯が後退したことで、唇もさがり口元のもっこり感はなくなりました。もう一つ「ウメボシ状隆起」について説明します。「ウメボシ状隆起」とは、オトガイ部(顎の先)の皮膚が張りつめて、皮膚に凸凹のある状態のことを言います。重ね合わせ図で、顎の形に注目すると、実線は薄く緊張した直線状であるのに対し、点線は皮膚の張りつめがなくなり、丸みを帯びています。実際の顔貌でも、ウメボシ状隆起はなくなり、やわらかできれいな形になりました。美しい横顔の女性です。
本症例は上下顎前突症例でした。本人の前歯の位置は、日本人平均値よりもかなり前方に位置しており、このことが横顔を悪くしていました。診断の結果、第一小臼歯の抜歯が必要です。
さて、ここで抜歯に関するお話をひとつ。
「抜歯が悪で、非抜歯が善か」違います。イメージや感情論ではなく、学術的に正しく診断された結果が優先されます。診断の結果が抜歯であれば抜歯、これは善。非抜歯であれば非抜歯、これも善。抜歯症例を無理やり非抜歯で治療するのが悪なのです。
(※1)圧下
歯の移動方向を表す用語
圧下(あっか):根尖方向、歯を埋める方向のこと。
挺出(ていしゅつ):歯冠方向、歯が抜ける方向のこと。