44話 一本の歯が引き起こす問題
一本だけ反対咬合でも、この一本の歯がいろいろな問題を引き起こしています。
このことについて説明します。まず、通法にしたがって検査・診断をします。
本症例の治療方針は以下の通りです。
第一段階:上顎前歯の配列による機能的障害の除去と反対咬合の改善
観 察:側方歯交換の誘導
第二段階:機能的咬合の確立
保 定:観察
第一段階は今、行います。第二段階はあとで、全ての永久歯が生えてから行います。
【初診時】
7歳 女子
一本の歯が引き起こす問題とは。
衝突と前方誘導の画像
①上下の一本どうしが衝突する瞬間がある。
②このため、歯に過剰な負担がかかる。
③この衝突を避けるため、顎を前に出して咬む。
④顎を前に出すと、顎関節の隙間も不必要に広がる。
という問題が発生しています。この様な状態は放置できません。
【第一段階】
改善しました。この時点で、前歯に隙間があったり、高さがそろっていなくてもかまいません。
第一段階の目的は、前述の①~④の解消です。
観察に移行します。
【頭部エックス線規格写真】
初診時
改善時
二枚のレントゲンを重ね合わせると何がどう動いたか分かります。これはレントゲン写真にトレーシングペーパーを貼り、構造物を転写して表します。
【重ね合わせ図】
治療効果の検証
初診:実線、点線:術後
撮影時期に2ヶ月の間隔はあるも、本症例での成長は無視できる。
イ、上の前歯を外側に傾斜させた→歯の衝突解消→歯の負担除去。
ロ、イの結果、下顎の前方誘導がなくなり、自然の位置に後退。
ハ、顎の後退は、顎関節相当部でも反映している。
上記のメカニズムで治療は達成されました。
下顎の前方誘導がなくなったことで、下顎は本来の位置まで後退し顎関節も安定しました。正常な成長発育の軌道に乗せることに成功したと言えるでしょう。
もし、一本の歯を放置すると、下顎の前方誘導は関節窩と下顎頭(※1)の関係にまで波及し、下顎頭の成長に影響します。
本症例のような機能的反対咬合であっても、骨格的反対咬合に移行することがあります。反対咬合は適切時期に適切な治療が必要です。放置することのないようにして下さい。
一連の写真でみられる上顎前歯部歯肉の貧血状態は、上唇小帯が引っ張られて生じた
現象で特に問題となりません。
(※1)顎関節を構成する各部の名称
関節窩(かんせつか):頭蓋骨側頭部にある、顎関節の凹部
下顎頭(かがくとう):下顎骨にある、顎関節の凸部