29話 みにくいアヒルの子
みにくいアヒルの子の時期。アグリーダックリングステージ(Ugly duckling stage)。
永久歯の前歯が生える時期のことで、一時的に正中離開が生じて、みにくいけれどその後に側切歯、犬歯が生えることで隙間は閉鎖され美しくなる。このことを、童話「みにくいアヒルの子」に例えて呼んでいます。
つまり、
①生え始めの前歯に隙間があっても慌てなくていい。
②自然に治ることもある。
ということです。ここまでは、自然治癒もあり得るとした、イイお話し。しかしながら、なかには
③自然には治らないこともある。
今回は③のケースについて取り上げます。
【初診時口腔内写真】
下顎の前歯が生えそろい上顎の前歯が生えてきます。
この時、
ア、単に、逆V字状なのか。
イ、ねじれて、逆V字状なのか。
がポイントです。模型で説明します。
【アの場合】
隣の歯が生えてくるに従い、押されて隙間は閉鎖する。
【イの場合】
ねじれているため、隣の歯と接していない。 隣の歯が生えても閉鎖しない。
もう一度、初めの口腔内写真に戻り、本症例がどちらのタイプか確認してください。このタイプは、自然には治らないので矯正治療をしました。
次に示す写真は、矯正装置を外した時のものです。
【上顎の前歯配列終了】
ブログで紹介している症例は全て、わたしが治療しています。このブログの目的のひとつに、正しい矯正歯科の知識の普及があります。というのも、いろんな歯科医院がいろんな事をしているのも事実だからです。
ここで、誤った例を再現してみましょう。今回の症例に対し、ある先生から次の様に言われたらどうしますか。
「上ノ歯ガ 凸凹ナノハ 顎ガ狭いカラ レントゲン画像デモ 上ノ顎ガ 狭ソウデス」「床矯正装置 カ 拡大装置 ヲ 入レマショウ」「今スグ ヤリマショウ」
なるほど、そう言われれば、親としては心配になってきますよね。では、どこが間違いなのか。
第一に顎が狭いという根拠がレントゲン画像である点です。顎が狭いを証明するには、歯型を採り石膏模型上で「骨の部分」と「歯列の部分」の幅と長さ(深さ)を計測する必要があります。さらに「上顎骨」か「歯列」かを明確にして、標準値と比較検討して初めて、それが分かります。顎の広い狭いは、画像からは分かりません。
第二に、診断が不明な段階で具体的な装置名をあげている点です。一般歯科の先生が講習会などで、矯正装置の作り方を教わると使ってみたくなる心理が働くようです。「診断なくして、治療方針立たず」。不正咬合を治すのは装置ではなく、診断です。矯正歯科認定医は診断を最も重視します。
第三に、治療を急がせている点です。患者さんに不安をあおったり、治療へ誘導するような言動は歯科医師として、やってはいけません。
さて、前回の「八重歯は可愛いか」の内容とも関連がありますが、生え変わり時期のレントゲン画像の見え方を説明します。
先行する乳歯 C・D・E と後続の永久歯 3・4・5 の関係は下顎と上顎では見え方が違います。下顎は乳歯の真下に永久歯が存在します。上顎では後続永久歯は少しズレて位置し、「ぶどうの房」のように見えます。
【マーク入り】
【マークなし】
上顎骨は鼻の骨と隣接し、構造が複雑なため、後続永久歯の居場所は限られています。画像の様に「ぶどうの房」状に位置するのが普通です。顎が狭いから、混み合っているのではありません。構造上、そう見えるだけです。
いろんな歯科医院があります。
「上ノ歯ガ 凸凹ナノハ 顎ガ狭いカラ レントゲン画像デモ 上ノ顎ガ 狭ソウデス」「床矯正装置 カ 拡大装置 ヲ 入レマショウ」「今スグ ヤリマショウ」と言われた時は、今日の話を思い出してください。