13話 横顔のバランス
抜歯・非抜歯(ばっし・ひばっし)の判定は、基準値と患者さんの検査資料を照らし合わせて行われます。使用する基準値は、大学などで古くから研究蓄積されてきた日本人のデータを用います。検査資料のうち、抜歯分析で用いるデータは以下の通りです。
①歯の凸凹の量(大小)
②歯列の湾曲の程度
③横顔に対する前歯の位置(下顎前歯)
このうち③について、説明を加えます。
あなたの家族や友人の横顔をそーと覗いて見てください、口元はどんな感じですか。
「もっこり出た感じ」「ひっこんだ感じ」「スッキリした感じ」。
「出た」に対しては、現在の前歯の位置を後ろに移動させます。このことにより、唇も連動して後退するので口元がスッキリします。横顔のバランスがととのい、美しい顔が出来上がります。
初診時口腔内写真
今回の症例は、
①歯の凸凹の量→大
③横顔に対する歯の位置→出た感じでした。
診断の結果、第一小臼歯の抜歯が必要と判定、マルチブラッケト治療を開始しました。もし、この症例を非抜歯で行うとします(事実上不可能ですが)。どうしたら並ぶか、一緒に頭の中でシミュレーションしてみましょう。
まず、上顎の歯列を横に広げるでしょう。犬歯、小臼歯、大臼歯は頬っぺた側に傾斜していきます。相対する下の歯と、かけ離れていきます。今度は、下顎の歯列も横に広げることになります。上顎と同じように頬っぺた側に傾斜していきます。さらに上下の前歯のかさなりを解消させるためには、唇側におおきく傾斜させざるを得ないでしょう。
繰り返しますが、この症例は「口元出た感じ」です。歯が並んだときは、全ての歯は外側に大きく傾斜しているはずです。前歯は鳥のくちばしの様に傾斜し、口元の出た感じは、もっと強調されます。横顔のバランスは崩れ、、およそ美しいとは言えません。無理な非抜歯治療は有害でもあります。
第一小臼歯の抜歯の抜歯後、マルチブラッケト治療を開始。
装置を外した時の、口腔内写真。
写真が示すとおり、美しく、機能的な歯並び・咬み合わせ。顔の写真は載せていませんが、口元がスッキリとした美しい顔をつくることが出来ました。矯正治療とは、アンバランスからバランスへと誘導する治療であると言えます。