81話 成人 叢生症例
叢生症例(そうせい~)。叢生とは歯列に凸凹がある状態を表します。
初診時の横顔のシルエットです。
頭部エックス線規格写真をトレースしました。
私たちが普段見ている家族や友人の顔は、顔の外観の軟組織を見ています。
私は人の顔を見たとき、その人の骨格や歯の状態を想像します。
顔の軟組織は骨と歯の裏打ちがあって形作られています。言い方を変えれば骨と歯の上に軟組織がのっかています。
図A
この時の、歯の状態です。
口は顔全体の一部であるので、歯並び・嚙み合わせを治すときは、このことを考慮する必要があります。
図Aに、「78話 抜くか抜かないかの話2」で紹介した、基準線を記入してみます。
本症例の下顎前歯の位置は前方12㎜でした。しかも歯列に中程度の凸凹があります。
凸凹を解消しながらも口元が出ないように、むしろ引っ込めるように考えます。
【初診】
20代 女性
検査資料を分析して診断をします。抜歯分析では、抜歯判定の結果です。
上下の第一小臼歯 を抜歯して、マルチブラケット装置で治療を始めます。
【治療後】
治療期間は22ヶ月。
上顎の二番目の前歯は矮小歯(わいしょうし)といって、円錐形をしておりサイズも小さいです。矯正治療では、この点を考慮して全体を配列します。
撮影の都合上、保定装置を外していますが普段は装着しています。
【治療効果の判定】
初診
治療後
【重ね合わせ図】
実線:初診 点線:治療後
1、上顎前歯:6.0㎜ 後退 と 2.0㎜圧下(※1)
2、上 唇:3.0㎜ 後退
3、下顎前歯:3.0㎜ 後退 と 3.0㎜圧下
4、下 唇:5.0㎜ 後退
本症例で示した様に、歯並び・咬み合わせは当然のこと、口元を引っ込め顔貌の改善がなされました。矯正治療は容姿を扱いますので、患者様の要望や希望は最大限かなえるようにします。しかしながら、その要求が医学的・歯学的に正しくないものであれば、きちんと説明をして、ご理解をいただくこともあります。
矯正治療は医療です。治療は客観的なデータに基づいて、正しい治療でなくてはなりません。
顎顔面は機能してこそ美しいのです。また、美しいものは常に機能的なのです。
関連記事
※1 歯の移動方向を表す用語で、
圧下(あっか) :根尖方向、歯を埋める方向のこと
挺出(ていしゅつ):歯冠方向、歯が抜ける方向のこと