69話 歯科医師選び
歯科医師にもいろんな先生がいます。
私のように矯正治療が得意な人もいれば、そうでない先生もいます。
従って、同じ症例であっても、担当医の考え方ひとつで治療方法が異なることがあります。このことは歯並び・咬み合わせの相談をどこでするかによって、ご自分の未来が変わってしまうことを意味しています。
【初診時】
本症例を例題として、症例のとらえ方の違いを考えてみましょう。
・前歯が一本飛び出している症例。
はたして、そうでしょうか。違う見方はありませんか。
・一本を除いて、前歯がたおれている症例。
見方が、逆転しています。
・顎が狭いので凸凹がある症例。
こう考える先生もいることでしょう。
・前歯の異所萌出
抜いて、人工物で補うか。
頭部エックス線規格写真をきちんと分析します。診断とは、検査資料を読み解き問題点を抽出することです。本症例は咬み合わせの深い上顎前突症例です。通法に従って矯正治療をします。
【治療後】
動的治療期間 19ヶ月
咬み合わせの深さの違いが分かりますか。ピカピカの天然歯、自分の歯、きれいです。
【術前術後の比較】
本症例は私が矯正治療をしましたが、同じ症例であっても先生によって扱い方が異なることは、冒頭にお話ししました。
異なる見解について、もう少し考えてみましょう。
極端な例は歯を細く削って、差し歯にする方法(けしてお勧めできない)。
場合によって向かって右の前歯を抜くかもしれません。医院によってはセラミック矯正と宣伝していますが、この方法は矯正治療ではありません。
良識のある先生は、矯正歯科医宛ての紹介状を持たせてくれるでしょう。
最悪なのは間違った知識による治療行為です。新興の矯正セミナーを受講した先生にみられるケースで、症例に関係なく一律に上顎に急速拡大装置を使用します。
ついでながら、急速拡大装置の話をもうひとつ。
小さな子どもを連れたお母さんの矯正相談です。他医院で急速拡大装置を勧められたとのことでした。私が診たところ、現在どこにも問題はなく、拡大の必要はありません。そもそも矯正治療の必要性がないのです。どうしてそういう話になるのか、不思議でなりませんでした。聞けば、レントゲン写真上で永久歯が窮屈になっており、このままでは、将来凸凹になると言われたそうです。
この話の中に、人をだますテクニックがあるので、覚えておいて下さい。
「レントゲン写真上で永久歯が窮屈」に見える特性を利用したのです。
これは上顎骨の構造上、後続永久歯はその様に位置取りをします。画像では窮屈に見えるだけなのです。今は問題のない乳歯列の子どもに将来の不安をあおり、親の責任論を説き、必要のない矯正治療に誘導する悪質な行為です。
※ レントゲン写真の見え方については、
29話「みにくいアヒルの子」を参照してください。
いろんな先生がいて、その考え方で治療方法が異なるのが分かりました。
そこには、誤った治療もある。必要のない治療もある。健全な治療もある。
どこで何をするかは、自分の、自分の子どもの未来を決めることでもあります。
歯科医師選びには慎重な判断が必要です。