38話 顔を治す
さっそくですが、本症例の診断結果を以下に示します。
①骨格性反対咬合である
②下顎が前に誘導されている
③かつ、左に顎変位していく
④上顎前歯2本の先天欠如
治療ではここに挙げた点について、ていねいに対応していきます。ただ、ひとつだけ治療を難しくする要素がありました。それは年齢です。小学6年生の女子でした。もし、あと1年遅いと治療は困難なものとなります。なぜなら全身の成長に連動して、下顎は増大する傾向があるからです。幸い、この時承諾を得ることができましたので治療ができました。
【初診時口腔内写真】
小学6年生 女子
反対咬合でありながらも、下顎が向かって右に変位しています(本人の左)。
【反対咬合改善時】 反対咬合は4ヶ月で改善されました。写真は6ヶ月目のもの。
本症例の問題点は
①骨格性反対咬合
②下顎が前に誘導される
③かつ、左に顎変位する
④上顎前歯2本の先天欠如
第一段階の目的である、①②③は改善しました。
検証してみます。
【頭部エックス線規格写真】
初診時
改善時
うっすらと、軟組織の横顔が見えます。初診時の横顔は骨格的反対咬合の特徴的な横顔をしています。原因にアプローチしているので、軟組織の横顔も改善しました。
【重ね合わせ図】
図は脳頭蓋底での重ね合わせです。
初診:実線、反対咬合改善時:点線
2枚のレントゲン写真には6ヶ月の時間差があります。小学6年生 女子、成長期であることを考えると、実線の前方に点線があるはずです。しかし、そうなっていない部位は人為的な操作、介入による動きです。
1、前頭部:点線は1.0㎜ 前方⇒成長
2、上顎骨: 2.0㎜ 前方⇒治療効果
3、下顎骨: 7.0㎜ 後下方 ⇒治療効果
4、関節付近: 2.5㎜ 後方⇒治療効果
5、横顔の軟組織:上唇部 前方⇒治療効果
下唇部 後方⇒治療効果
治療効果をまとめます。
上顎骨が前方にけん引されたこと、下顎骨が後方に2.5mm移動、かつ後方回転した。
以上のメカニズムで反対咬合は改善しました。また、骨格の移動に連動して顔の外観、横顔も改善され美しくなっています。
【顎変位】
左右臼歯部と正中にマークを付けます。
初診時と反対咬合改善時
向かって右側臼歯の関係に注目、正中も改善しました。ここまで、第一段階の反対咬合の改善までを説明しました。仕上げの治療は第二段階で行います。
さて、矯正治療は人間の成長発育に介入します。適切な介入は治療になりますが、不適切な介入は暴力になります。術者は少しだけ手を施して軌道修正する。正常な成長発育にのったなら、あとは機具を外して観察する。私は、最小限の介入で、効率よく治療するのが良いと考えています。
根拠のない装置の使用もまた、暴力になりえます。もしあなたの子どもが、日本矯正歯科学会認定医によらない矯正治療で、拡大装置や床矯正装置を使用している場合には注意が必要です。